裕子の小説置場☆
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「私は――」
彼女はそう言ったまま、言葉を詰まらせた。
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そう、あの長芋好きな息子のことが気にかかっているにちがいない。
私は、彼女の首に巻かれたままになっていた首輪を外しながら言った。
「どっちを選ぶもあなたの自由。 正解なんてない」
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ワン!――
犬は、自分が必要とされているのがわかったのか、答えるように、ひと声吠えた。
いっぽう、飼い主の表情には、ためらいが浮かんでいた。
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はぁ、はぁ、はぁ……
しばらく深い息をして呼吸を整えると、彼女たちに言った。
「犬なら鼻が利くでしょ? ちょっと手伝ってほしいの」
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彼女たちの前に着くと、その場で駆け足をつづけながら呼吸を整える。
「ちょ、ちょっと待って……今……い、息を整える……から……」
彼女たちは上目遣いで私をにらんだままだ。
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街灯に照らされ、うっすら浮かび上がる人と犬の姿。
まちがいない、さっきの主婦と飼い犬だ。
警戒しているのか、私に向かって低いうなり声を上げている。
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心の中で、何度目の「ナー」をつぶやいただだろう。
住宅街から環七沿いの歩道に入り、しばらく走りつづける。
あ! まだ、いた!
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ジョジョジョジョ ジョイナー ジョジョ ジョイ ナー
口には出さず、心の中でリズムを刻む。
「ナー」だけは、すこし鼻にかかった裏声で。
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たのむわ!
どうかまだ、あの場所で落ち込んだまま、じっとしていて!
そう願いながら、とびっきりのジョイナー走りで住宅街を駆け抜けた。
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アパートの玄関を入り、自宅ドアに向かう途中、ふと先ほどの主婦と飼い犬のことを思い出した。
あの人たち、まだあそこに座り込んだままなのかしら。
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大村崑誘拐は、怨恨なんかじゃない!
まちがいなく、金目当てね!?
けど、へそくりを無事回収した犯人は、用済みになった大村崑を――
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うん、やっぱり、へそくり説の線はないわね。
あ、でも、お札はビニール袋に入れておけばいいのか。
まさかこんなところに、と思うような、逆に目立つところに隠したほうが、みつかりにくいのかも!
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しかし、なぜ?
わざわざ人目につく看板の裏になんか――
雨が染み込んで、お札もぐしょぐしょになっちゃうだろうし――
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大家さん、あれから捜査は進んだのかしら。
たとえば、だれかがこっそりあの看板の裏にへそくりを溜めつづけていて、とうとう使う日が来たから、看板ごと外して持っていった、とか。
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自宅アパートに着いた。
やはり、オロナミンCの看板は剥がされたままだ。
そりゃそうよね、あんなもの外して持っていって、またわざわざ返しに来たりしないものね。
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そう考えたら、自然と脚が早くなった。
高円寺駅前の佐倉水産のことが気になったが、まあいい、お店は逃げたりしない。
どうせ明日も、浦安に向かうため駅に行くし。
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さっきは全力疾走して体力を消耗した上に、駅前に行く気も失ってしまった。
明日はきっと、太ももが筋肉痛だわ。
さっさと帰って、ラーメンを作って食べてゴロゴロしよう。
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さきほど置き去りにした、犬と飼い主のところまで戻ってきた。
彼女と犬は肩を寄せ合い、道の端に座っている。
「遅くなる前に帰りなさいよ」
私はそう声を掛け、彼女たちの脇を通り過ぎた。
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陽はすっかり落ち、環七沿いを歩く私の横を、幾筋ものヘッドランプが通り過ぎていく。
なんだか面倒臭くなってきちゃった。
私は踵を返すと、自宅に向かった。
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呆然と私を見つめる彼女の背から降りると、高円寺駅を目指して歩き出した。
首輪を外された犬は、突如手に入れた自由に戸惑い怯え、飼い主のまわりをただうろうろ歩き回っている。
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彼女は振り向き、黙って私の顔を見上げている。
私は言った。
「『あなたたちに、私のことが笑えるの? 人は誰しも目に見えない首輪を巻いているというのに!』ってね!」
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彼女は首輪に手をかけて外そうとしたが、私は背にまたがったままリードを引き、彼女を制した。
「いい? このまま四つん這いになって家に帰りなさい。 そして、家族の前でこう言うの」