裕子の小説置場☆

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む

すぐ背後で、自転車のベルと若い女性の叫び声がした。
「ちょっと！　どこ見て歩いてるのよ！」
この声、どこかで聞いたことのある……

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む

私は道の真ん中近くまで出て、かどを曲がった。

チリン　チリン！　キキーッ

「きゃっ、あぶない！」

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む

次のかどを曲がれば、コンビニはすぐそこだわ。
けど、失敗した。
かどは背中側だわ。
背中をぶつけないよう、十分に離れて曲がらないと――

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む

通行人のみなさん、歩きにくくさせて、ごめんなさい。
もうじき私、目的地に着きますから……
ああ、こんなことなら、コンビニ袋にでも穴を空けてかぶってくればよかった。

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む

横目で見ながら歩いているので、極端に視野が狭い。
なんどか前方から人が歩いてきたようだけど、すぐに視界から消える。
みんな、なるべく私とは、距離をあけたがるらしい。

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む

私は横歩きを始めた。
リュックサックは顔に当てたままだ。
ほんのりと洗剤のいい香りがする。

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む

しかし、電車を降りるときもそうだったけど、リュックサックで顔を隠していると、まっすぐ歩きづらいわね。
かといって、ムーンウォークは封印中だし――
ここはあいだを取って、カニ歩きかしら？――

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む

どうせ背負えないんだから、リュックサックで顔を隠しながら行こう。
けど、リュックサックのほんとうの使い道は、これからよ。
見てなさい、ピーナッ子、イカゲソ、カオリ――

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む

向かう先は、近所のコンビニだ。
もともと青果店をやっていたらしく、野菜も一緒に売っている。
気をつけないと――まだカオリがこの辺りをうろついてるかもしれない。

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む

まずは、材料を用意しなくちゃ！
テーブルの上の財布を手に取り、ジーンズの後ろポケットにねじこむと、床に落ちているリュックサックを拾い上げ、家を出た。

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む

――ん？
そっか！　そうよ！
これだわ！　あったわ！

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む

いや、そもそも、手がかりとなるリュックサックを、わざわざ持って出歩くこともないわよね。
なにか、自宅内で有効な使い方はないかしら――
うーん――

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む

この程度の湿り気なら、あとでドライヤーで乾かせばいい。
そんなことより、リュックサックの使い道よ。
背負えないなら、手に提げる、とか？

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む

私は玄関から部屋に上がり、リュックサックを放り出すと、その場で座禅を組み、瞑想にふけりだした。

心を落ち着かせて、天からのインスピレーションを受けるのよ。

――よだれで湿ったままの、膝のあたりが気になる。

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む

で、どうしよう、このリュックサック。
肩ベルト以外は特に問題ないし。
なにかいい使い道はないかしら――

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む

肩ベルトをつかんだ私の手から、リュックサックはだらしなく垂れ下がっている。
ま、まあ、ドアノブが取れるよりはマシよね。
物には寿命がつきものだし――

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む

ビリッ――
やぶけた――
リュックサックの肩ベルトが――

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む

だいじょうぶ――よね？

念のため、なんどかリュックサックを下にひっぱってみた。

――うん、びくともし――

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む

あ、そうか、今修理してもらったばかりの、玄関のドアノブに引っ掛けておけばいいのか。
さすがにもう、取れたりしないでしょ。
私は玄関に行き、ドアノブにリュックサックを引っ掛けた。

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む

いや、よそう……
このところ、私とドアノブの相性は最悪だもの。
もし、シャワーを浴びてる間にドアノブが壊れ、中に閉じ込められでもしたら、いい物笑いの種だわ。

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む

どこか、リュックサックを引っ掛けられる、適当な場所はないかしら？
ぐるりと部屋の中を見回す。
――とりあえず、バスルームのドアノブにでも、引っ掛けておくか。

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む

もしかしたら、ピーナッ子たちも、この辺りをうろついてるかもしれない。
そしたら、外に干してあるこのリュックサックが、てがかりになってしまうわ。
念には念を入れて、部屋の中に干すことにしよう。

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む

手でリュックサックのしわを伸ばしながら居間に戻る。
今から干せば、明日の朝までには乾くかしら？
窓のクレセント鍵を下ろし、開けようとしてやめた。

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む

私はよろよろと立ち上がり、洗面所に入った。
洗濯機のスイッチを切り、蓋を開けると、リュックサックはぺしゃんこになって、洗濯槽に貼りついていた。
それをつまんで取り出す。

千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む

つい、座ったまま眠りこけていたらしい。
ジーンズの膝のあたりが、よだれで湿っている。
疲れた――朝からいろいろありすぎだわ、今日は――