裕子の小説置場☆
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
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千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
すこし間を置いて、あいかわらず無表情のまま、カオリは答えた。
「……母とは、もう、しばらく……会ってないわ」
ええ!? カオリって、大家さんの知り合いの娘?
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「元気にしてるの? セツコは」
大家さんはそう言うと、パイプをさする手を止め、ポケットから煙草とマッチを取り出
した。
カオリは構えを崩さない。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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なにそれ? 大家さんって、ミステリー小説兼時代劇オタクだったの?
大家さんはパイプをつまみ、口から離すと、出刃包丁で受けた傷を確かめるように、さすっている。
カオリは、いまにもニ撃目を繰り出さんとばかりに、身構えたままだ。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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あー、びっくりした!――大家さん、てっきり斬られたものかと――
「その太刀筋、たしかに覚えがあるわ」
大家さんはパイプをくわえたまま、ニヤリと笑い、言った。
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カオリは、下から出刃包丁を振り上げた姿勢のまま、動かない。
パイプ――?
大家さんはくわえたパイプで、出刃包丁を受けて止めていたのだ。
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ガッ―――
固いもの同士のぶつかる鈍い音が、大家さんとカオリの間で響いた。
カランカラン―――
少し遅れて、私の投げたペンチがコンクリートの廊下を転がる音も聞こえた。
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その声に圧されて、私は無意識に工具箱へと飛びついていた。
身体を沈め、右手に持った出刃包丁を、後ろに大きく引くカオリ。
私は無我夢中で、工具箱からペンチを掴み出すと、大家さんに向かって投げた。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「え、えへへ、ここはひとつ、こいつで手を引いてもらえませんかねぇ? だんな」
カオリによく見えるよう、10円玉2枚を載せた手のひらを突き出す。
一瞬、カオリの眉間にシワが寄った。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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あった――――
先日、100円の自動販売機でジュースを買った際に余った20円!
私はポケットから小銭を取り出し、大家さんの背後から、カオリに向かって手を差し伸ばした。
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私は自分の履いているジーンズのポケットに両手を突っ込むと、中を探った。
食べ終わったガムの包み紙――
くしゃくしゃに丸まったレシートやティッシュ――
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近くに置いてある工具箱のあたりを指差すと、親指と人差し指で輪をつくり、指先をなんども開け閉めしている。
えーっと――――
わかったわ! ここは、大人らしく、穏便にお金で解決ね!?
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「……どういうつもり? そんな物騒なもの、あなた、ふだんから持ち歩いてるの?」
大家さんは、声を一段、低めて言った。
と同時に、左手を後ろにまわし、私に見えるよう、なにかサインを送ってきた。
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「そう……、だったら、力尽くで嗅ぐまで……」
だらりとさげたカオリの右手の袖口から、なにかが顔を覗かせた。
――出刃包丁!?
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「言ったでしょ!? このアパートの敷地内で、勝手な真似はさせないわよ!」
大家さんを避け、ためらうことなく、私に近づこうとするカオリ。
両腕を広げ、それをさえぎる大家さん。
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「もっと……もっと近くで……匂いをかがせて……」
カオリは鼻を突き出すと、とりつかれたように、ゆっくりとこちらに向かってきた。
大家さんは、なにか危険なものを感じとったのか、私をかばうように、カオリの前に立ちはだかった。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「ショートカットの、若い女の子……。 ニンニク醤油の匂いが染みついた、リックサックを持ってるはずだって……」
カオリは疑うような目つきで、私を見た。
「さっき公園で匂いを嗅いだときも、たしか、あなたから、ニンニク醤油の匂いがしてた気がする……」
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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ニンニク醤油の話を知ってるってことは、どう考えても、ピーナッ子たちの仲間だわ。
――ということは、カオリがさくら姉さん?
そうでなくても、あいつらと関係していることは、間違いない。
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あった――
さきほど突き飛ばされた、自転車置場に落ちていた。
な、なんなの? この女――私を追ってきたってこと?
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「たぶん、この辺りだと思うんだけど……煙草の煙が邪魔して……」
カオリは大家さんのくわえているパイプを、うらめしそうに、にらみつけている。
私は大家さんの陰にかくれながら、リュックサックが落ちていないか、そっと辺りを見回した。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「ニンニク醤油の匂い……。 でも、ふつうの人には、わからないわ。 私、人よりちょっとだけ、匂いに敏感だから……」
げっ――それ、私のリュックサック!
あれ? そういえば、リュックサックは?
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「私、人を捜してるの。 この辺りで、匂いが途切れたんだけど……」
カオリは私の申し出を無視して言った。
「匂い? そんなに目立つような匂いなの?」
大家さんが聞いた。
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「掛け声、気に入っちゃったから……、でも、使って欲しくないなら、もうやめるわ」
カオリもまた、大家さんから目を逸らすことなく言った。
「べ、べつに、使いたいんだったら、使わせてあげなくもないんだけど!」
私は大家さんの背後から顔だけ覗かせると、口をとがらせ言った。