裕子の小説置場☆
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
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千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
ブッ、ブフーーーーッ
大家さんは、慌ててパイプに手をやり、口から離すと、弾けるように笑い出した。
アハハハハハッ――――
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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玄関に転がっているドアノブを、無言で見つめる二人――
ブフッ――
大家さんはパイプをくわえたまま、むせるように煙を吐き出さした。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「え? い、いえ……た、たぶん、カチャカチャっていう、ドアノブを回すような音かなぁって、勝手に想像して……」
私はすかさず自宅ドアのドアノブを掴んでひねり、音を立てようとした。
「ほら、こんな音……」
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「あ、はい! だ……大丈夫です。 もう、あんな金属音はしないと思いますから!」
私は慌てて答えた。
「え? あんな金属音って、裕子ちゃんも聞いたの?」
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「裕子ちゃん! 裕子ちゃん! 大丈夫?」
大家さんの呼ぶ声で、我の推理は中断された。
「またボーっとしてたようだけど、ほんとに頭、どこもぶつけてない?」
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あ、そうそう、それで、二台の車だけど――どうやら私たちが一台目ってことは確定ね――
じゃあ、二台目に乗ってきた人が、看板を外して持っていった?
それとも、その二台目とは、また関係ない人がやってきて――
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とは言うものの、息子さんが受験に失敗して、大家さんが悲しむ顔を見るのもイヤだから、これからは、私も騒音には十分に気をつけるようにする!
それに、ドアノブは、もうしっかりドアに付けてもらったし、ペンチの開け閉めって、見た目より全然楽しくないんだもん。
もう二度と夜中に、カチャカチャ金属音がすることもないはずよ!
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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人生は長いわ――
今見えている道が、唯一絶対の道とは限らない。
高円寺から浦安へ行くのだって、総武線に乗り入れている東西線に乗っても、新高円寺から丸の内線に乗っても、どちらでも行けるもの。
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でもね、若い頃には一度や二度くらい、失敗を経験しておいたほうがいいのよ。
順風満帆の人生ばっかり送ってると、人の心の痛みがわからなかったり、ちょっとしたつまづきをきっかけに、人生投げ出したりしちゃうからね。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「ほんと、真夜中に迷惑よねぇ。 息子が受験に失敗したら、どう責任取ってくれるつもりかしら。 このアパートの住人じゃないことを願うわ」
ごめんなさい、ごめんなさい――
もし息子さんが受験に失敗したら、私、精一杯、なぐめてあげますから――
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「あと、なにかしら、先に停まっていた車のエンジン音が消えたあと、すぐ近くで男女の話し声と、カチャカチャていう、せわしない金属音がしていたって言うのよね。 私はもう、ぐっすり寝ていたから、ぜんぜん気付かなかったんだけど……」
あ、それ、私たちがドアノブを回して遊んでた音だわ――
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問題は、私たちじゃない、もう一台の車――おそらくタクシーだろうけど――が、先に来たのか、後に来たのか、よね。
もし先に来たのなら、私たちが着いたときには、まだ看板があったから、その車はシロ。
でも、もし私たちの後に来たのなら――アヤシイわ――
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――うーん、となると、同一人物か、人気のある同一車種ってことになるわね。
あれ? ということは、刈名谷さん、戻ってきたの?
いやいや、アパートの他の住人が、タクシーに乗ってきただけかもしれないし――
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「それでね、その二台とも、エンジン音がよく似ていた、というか一緒だったって言うの。 ちょうど受験勉強で英単語を暗記していたところに、エンジン音が響いてきたものだから、気になって集中できず、印象に残っていたのね」
大家さんは、またパイプをくわえて深く吸い込むと、ゆるゆると煙を吹き出した。
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たぶん、その停まっていた車のどちらかは、私と刈名谷さんだわ。
それにしても、大家さんの息子さん、ずいぶんと夜更かししてるのね。
たしか来年、大学受験だっけ?
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煙草に火が点り、甘い香りが漂い出す。
大家さんは私から少し離れ、フーッと大きく、煙を吐いた。
「夜中に二度ほど、アパートの前で、しばらく車が停まってたって言うのよね」
大家さんは話を続けた。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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大家さんは、工具箱にドライバーをしまうと、ポケットからパイプとマッチを取り出し、煙草を詰めだした。
「そうそう、さっき、うちの息子から聞いたんだけど……」
そう言いながら、大家さんはパイプをくわえ、マッチを擦った。
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そういえば、大家さんは大村崑の看板について、なにか手がかりを得られたのかしら?
「ドア、ありがとうございます。 あの……看板について、なにかわかりました?」
私は聞いた。
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「そのまま押さえといてね」
大家さんは、しゃがんだり立ち上がったりしながら、上下の蝶番を、あっという間に締め込んでいった。
「はい、おしまい。 もう大丈夫よ」
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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ドアを垂直に立て、ぽっかりと空いた玄関に、ゆっくりと、はめ込んだ。
「ちょっとそのまま、押さえててくれる?」
大家さんは、ドアから手を離し、そばに置いてあった工具箱から、ドライバーを取り出した。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「じゃ、いくわよ、いっせーのーで!」
大家さんの掛け声に合わせ、私たちはドアを持ち上げた。
意外と軽い。
なんだ、この程度の重みじゃ、平面人間にはなれないわ。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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私もそれにならって、ドアに手を掛ける。
それにしても、いっせーのーでって、かわった掛け声ね。
どこかの方言かしら?
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大家さんと私は、倒れたドアを挟んで立った。
「じゃあ、いっせーのーでで、ドアを持ち上げるわよ」
大家さんはそう言いながら、腰を落としてドアの端に手を掛けた。