裕子の小説置場☆
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
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千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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だったら、東西線と同じ東京メトロの、丸ノ内線新高円寺駅から乗ったほうが、270円だけで済むわ。
帰りにユータカラヤに寄れないのは悔しいけど、130円のためよ。
私は駅を出て、南口商店街アーケードを南下した。
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北口のスーパー「ユータカラヤ」に、ちょっとだけ寄ろうかしら……
だめだめ! これ以上、時間を無駄にはできないわ。
行くんだったら帰りに寄って、値引きされたお惣菜を買おう。
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3歩進んで2歩下がる――3歩進んで2歩下がる――
急がば回れ、だわ。
軽快なステップで小一時間ほど歩くと、見慣れた高円寺駅南口のロータリーが見えてきた。
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リュックサックを背負うと、ブーツを履いて玄関を出た。
アパートの前まで来ると、大家さんは四つんばいになり、虫眼鏡越しに路上を熱心に調べている。
邪魔しちゃ悪いわね――私はその場をそっと離れた。
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とりあえず、こんなものでいいのかしら?
あんまり荷物が増えても、身動きがとりづらいだけだし。
もし、野宿することになったら、自分で火を起こさないといけないのね……
途中コンビニで、ライターとスポーツ新聞を買っていこう。
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玄関に入り、ブーツを脱いで部屋に上がった。
タンスを開け、着替えを揃える。
吹き矢の束は、PCデスクの隅に置いてあった。
それらをリュックサックに詰めながら、ほかに必要なものがないか、考えてみる。
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さすがに部屋の中まで、ムーンウォークで入ることはないだろう。
自宅は私のパーソナルスペースであり、インナースペースであり、そして、この宇宙そのもの――
つまり、ひたすら千葉に気持ちが向かっている今、身体と自宅は一体化し、もはや全方向が千葉――
自分でも、なに言ってるんだかよくわからないけど、とにかくさっさと荷物をまとめよう。
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「そう、おかあさんといっしょなら安心ね。 よろしくお伝えしてね」
「はい! じゃあ、忘れ物取りに戻ります」
私はふたたび、ムーンウォークでアパートの自室に向かった。
まだドアは外れて床に倒れたままのはず――つまづかないよう気をつけないと――
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「気をつけて行ってらっしゃいね。 だれかといっしょなの? 女の一人旅は危険だからねぇ」
「えっとえっと、母と……母と千葉あたりまで……」
ふと、刈名谷さんの顔が浮かんだ。
彼といっしょだったら、どんなに心強いことか……
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「これから旅に出るの? それにしては軽装ねぇ」
「あ、いえ、その……旅っていうほど大袈裟なものじゃなくて……」
しまった! こんな危険な旅、大家さんが知ったら、ぜったい止めるに決まってる!
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どうやら、わざわざ着替えに戻ったらしい。
しかし、それだけ大家さんも本気ということだ。
「私も……旅先でなにか情報を得たら、すぐに連絡します!」
虫眼鏡を持つ大家さんの手を、両手で握り締めて言った。
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「それがね、指紋一つ見つからないの。 これはプロによる、計画的犯行かもしれないわね」
大家さんは、手にしていた虫眼鏡で、私の顔を覗き込みながら答えた。
よく見ると、いつのまにか大家さんは、ディアストーカー・ハットをかぶり、トレンチコートを着込んでいる。
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「あ、そうだったの。 どうりで早いと思ったわ」
と大家さん。
ようやく、大家さんの隣に立つことができた。
「ところで、なにか手がかりは掴めました?」
私が聞くと、大家さんは首を横に振った。
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ここで、うしろを振り向いたら負けだわ。
私はムーンウォークを続けたまま、答えた。
「あ、ちがうんです、ちょっと忘れ物しちゃって……」
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アパートのすぐそばまで戻ってきた。
と、背後から大家さんの声がした。
「あら、裕子ちゃん、おかえりなさい。 早かったわねぇ」
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なめらかっ! なめらかっ!
心の中で拍子をとりながら、すべるような足取りで、自宅アパートを目指す。
そういえば、大家さん、なにか手がかりを掴めたかしら?
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いつまでも後ろ向きに生きていちゃダメと、一度はムーンウォークを封印しようと決意した私。
でも今、気持ちと身体は高円寺駅のほうを向いたまま――
そう! これは、勇気ある後退なのだ。
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あ、そういえば私――手ぶらじゃない?
母に作ってもらった吹き矢の束も忘れている。
いったん足を止め、そのままムーンウォークで今来た道を引き返した。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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ミステリーの真相が知りたい!
生きて帰ってくる決意を、なおいっそう固めた私だった。
高円寺駅に向かい、ひたすら歩く。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「じゃあ、ドアの修繕とミステリーの解決、お手数おかけしますが、よろしくお願いします!」
私は大家さんに向かって頭を下げると、踵を返し、高円寺駅目指して歩き出した。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「まあ、このミステリーは、裕子ちゃんが出掛けてるあいだに、おばさんが解いておいてみせるわ」
大家さんはそう言うと、割烹着のポケットからパイプとマッチを取り出し、火を点けた。