裕子の小説置場☆
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
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千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
ドアウィンドウがふたたび上がり、タクシーが動き出した。
私は走り去るタクシーに向かって手を振った。
と、数十メートル走ったところでタクシーが止まった。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「もちろんよ、乗せていたのが、たとえ総理大臣だったとしてもね」
「じゃあ、約束!」
私と母はうなづきあった。
私はタクシーから離れた。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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どこかで、きっと――
そうね、だって同じ都内に住んでるんだもの、会いたくなったら、片っ端から走ってるタクシーを止めればいいんだわ!
「うん、もしこんどおかあさんのタクシーを私が止めたら、たとえお客さんを乗せてても、放り出して私を乗せてくれる?」
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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またいつかどこかで――
やっぱり、もうお別れなんだわ――
うつむいた私に母が言った。
「元気出して! 今日こうして遭えたんだもの! またもういちど、きっと遭えるわよ!」
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しばらくして笑いが収まると、母は人差し指で目じりをこすりながら言った。
「ねえ、これ、おかあさんと裕子だけの秘密の合言葉にしない?」
「秘密の合言葉?」
「そう、またいつかどこかで遭えたとき、この言葉でお互いのこと、たしかめ合えるわ」
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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顔を見合わながら繰り返すうちに、なんだかおかしくなってきて、とうとう母と私は声を上げて笑い出した。
なぜだろう、こんなデタラメな言葉に、意味など無いはずなのに――
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「ブライト幸せ……」
私もつぶやいてみる。
「ね? とってもすてきな言葉じゃない?」
と母。
ふたりで声を合わせ、なんどかつぶやいた。
「ブライト幸せ、ブライト幸せ……」
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「ブライト幸せ、ブライト幸せ……」
母は首を傾げ、小声でひとりつぶやいた。
「あはは、なんだか幸せな気持ちになってきた」
母は目を細めて私を見た。
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「えっと……あ、うん……」
私は返答に窮した。
「うふふっ、裕子って、ときどきおかしなことを言うわよね」
母は楽しそうに笑った。
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あせればあせるほど、言葉が思い浮かばない。
このままお別れだなんて――
ウィンドウが閉じる――その寸前、私は母に向かって無意識に叫んでいた。
「ブライト幸せ!」
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ドアを閉め、エンジンを回すと、ドアウィンドウが下りた。
「じゃあ、お別れね。 あなたの旅の無事を祈ってるわ」
開いたドアウィンドウの向こうで、母はにっこり微笑みながら言った。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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タクシーの前に着いた。
母はポケットからキーを取り出し、運転席のドアを開けた。
助手席に工具箱を置き、運転席に乗り込む。
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母はかがんでドライバーをしまい、工具箱を手に提げた。
タクシーに向かって歩き出す母のあとを、私はついて歩く。
なぜか、スラックスのうしろポケットに手をかけて、ひっぱりたい気持ちに襲われた。
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ドアノブの具合を確かめ終え、母は私のほうを向いて言った。
「だいじょうぶそうね。 じゃあ、お母さんはこれで帰るわね」
「……うん……いろいろありがとう」
これで本当に母とお別れか――
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「んっ――」
喉から漏れる声とともに、母のドライバーを回す手に力が入った。
「これでよし、と」
母はそう言うと、ドアに取り付けたノブを回しながら、なんどかドアを開け閉めした。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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私も立ち上がり、器用にドアノブを取り付ける母を見つめる。
W.S.――はて? なんだろう――
わんこそば、和風サラダ、わくわくさせてよ、腋の下サラサラ――
あ、腋の下サラサラは、W.S.S.か――
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「大丈夫よ。 ドアもノブも問題ないみたいだし」
母は答えて立ち上がると、ドアの内側にまわり、空いた穴に外側からドアノブを差し入れ、カチャカチャとドライバーを回し始めた。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「さ、じゃあ、そろそろドアノブを取り付けましょうかね」
母はそう言うと、工具箱を挟んで私の向かいにしゃがみ、ドライバーを取り出した。
「どう? すぐ付きそう?」
私は尋ねた。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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と、工具箱の向こうに、母の足元が見えた。
つんつるてんのスラックスに、白いソックス。
ソックスのくるぶしあたりには、濃紺の刺繍が入っている。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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しまった――
ペンチは、私からドアノブを取り返すための、おとりだったのね――
くやしいけど、母のほうが一枚うわてだわ。
私はしゃがみ、無言で工具箱にペンチをしまった。