裕子の小説置場☆
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
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千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
私も負けじとペンチを開け閉めする。
なにこれ! ぜんぜんおもしろくない――
母を横目で見ると、無我夢中でドアノブ回しに没頭している。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「しょうがないわねぇ、じゃ、ちょっとだけよ」
母そう言い、ペンチとドアノブを交換すると、また夢中でドアノブを回し始めた。
カチャカチャカチャ
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「うーん、どうしようかなぁ……」
どうやら、よっぽど楽しいものらしい。
「ね、おねがい、ちょっとの間だけでいいから」
私はすがるように言った。
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ドアノブをひねるのも気持ちいいけど、ペンチの開け閉めも楽しそう……
「ねぇ、ちょっとだけ交換しない?」
私はドアノブを回す手を止め、母に言った。
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たしかに、ドアノブが外れなければ、私は今日、無理してでも旅立たなかったし、こうして母と出会うこともなかった。
カチカチカチカチッ
母の手が、激しくペンチを開け閉めしだした。
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「そう、運命……」
母はペンチの持ち手を両手で握り、カチカチとなんども開け閉めしはじめた。
「あなたを否応なく旅立たせるために、なにか見えない力が働いたとしか考えられないわ」
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「ねぇ、これってもしかして、運命なのかも……」
母はそう言うと、足元に置いてあった工具箱を開け、ペンチを取り出した。
「……運命?」
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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カチャカチャカチャ……
私は夢中でドアノブを回した。
これは、単純ながらクセになる。
子どもの知育玩具として販売してみたらどうかしら?
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「これってもしかして……」
母はそう言うと、ドアノブをいじる手を止めた。
その隙に、私は母の手からドアノブをひったくった。
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「うーん……」
母はドアノブを両手で掴み、がちゃがちゃと回しながら、なにかを考えている様子だ。
いいなぁ、ドアノブ回し。
なんだか楽しそう。
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ドアノブを母に渡すと、母はざっとその形状を確かめた。
「こちらも、特に壊れたってわけじゃないみたいねぇ。 どんなかんじで取れたの?」
そういえば、たしか、まったくなんの前触れもなく取れたのだ。
「それがね、ひねったら、いきなり、ぽろって……」
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母はかがんで、穴の状態を調べた。
「ドア側は、とくに欠けたり痛んだりしてないみたいね。 取れたドアノブはどこ?」
「玄関に置いてある」
私はそう言うと、穴に手をかけてドアを開け、下駄箱の上に置いておいたドアノブを手に取った。
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「うん、いろいろありがとう」
私は先に立って、アパート一階一番奥のドアに向かった。
ドアの前に立つと、家を出たときと同じ、ドアノブの位置にぽっかりと穴が空いたままだった。
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私と母はタクシーを降りた。
「いちおう工具を持って行くわね」
と、母はトランクを開けて、工具箱を持ち出した。
「もし手に負えないときは、おかあさんの知り合いの女性にお願いして、一晩泊めてもらいましょ?」
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看板の横でタクシーは止まった。
ちょうど窓の外では、鼻めがねの大村崑がオロナミンCを手に持ち、「元気ハツラツ!」と声を上げていた。
明日からしばらくのあいだ、この看板ともお別れね……
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タクシーが走り出した。
突き当たりまで進み右折すると、暗がりの中、大村崑の看板を見落とさぬよう、母はスピードを緩めた。
「あ! 見えてきた!」
私は、左前方を指差して言った。
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「いいわよ。 ここからどう行くの?」
母は前を向きなおし、ハンドルを握った。
「まっすぐ行って突き当たりを右。 そしたら左手に、大村崑がオロナミンCを手にした看板が見えるわ。 その向かいのアパートがそう」
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「うーん、見てみないことには、なんとも言えないけど……」
このままなにも手を打たないでいるよりは、母に望みをかけたほうがいい。
「じゃあ、家まで送ってもらってもいい?」
希望の光を見出した私の声は弾んだ。
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「そうだわ! もしよかったら、おかあさんがそのドアノブ、見てあげようか?」
母は私を元気づけようと、努めて明るく言った。
「え? おかあさん、もしかして直せるの?」
たしかに母は、ストローと爪楊枝でとっさに吹き矢を作り出すなど、なにか得体の知れないところのある人だ。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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母は残念そうな顔で、ティッシュを四つ折りにたたみ、ポケットにしまった。
「必要になったら、いつでも言ってね」
「うん……」
私は袖で鼻水と涙をぬぐった。
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「さぁ、わかったら、これで涙を拭いて」
母は使い古しのティッシュを差し出した。
「……いらない」
鼻をすすりながら、私は答えた。
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私の両頬を涙が伝った。
「ほら、身を守る武器は、もうさっき作ったでしょ? あとはあなたの心構え、それだけよ」
母はそう言うと、私の肩から手を離し、ブレザーのポケットから、くしゃくしゃに丸まったティッシュを取り出して広げた。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「ごめんなさい……私、なんにも考えてなかった。 こんな気持ちで浦安に行こうだなんて、考え甘すぎるよね」
情けなくて、涙がこみ上げてきた。
と、母は私の肩にやさしく手を置き言った。
「ううん、でも、あなたが大ネズミに会いたいっていう気持ち、おかあさん、よくわかる。 ただ、旅には心構えと準備が必要なの」
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「ドアノブが外れて家に居られないから浦安に行く……そんな生半可な気持ちでたどり着けるほど、浦安は……大ネズミは、甘い相手じゃないのよ!」
私を見つめる母の目は真剣だった。
今さらながら、自分の軽率さを悟り、恥じた。
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「裕子は一人暮らし? たしかに……戸締りしないで夜を過ごすのは物騒ね」
母は静かにうなずいた。
「でもね、浦安への旅は、あなたが想像している以上に、ずっとずっと危険で困難がつきまとうわ」
と、母は語気を強めた。