裕子の小説置場☆
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
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千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
「え? ドアノブが取れたって……? なんでまた……」
母はとまどいの表情を隠せない様子だった。
「前々から、ガタガタするなぁとは思ってたんだけど、今日、ついに取れちゃったの。 それで、家にいても物騒だし、もうこうなったら、夜を徹してでも浦安に行くしかないと思ったんだけど……」
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「私んち、ドアノブが取れちゃったの……」
私は脱力し、天井を見上げながら言った。
これじゃあ家に帰っても、安心して眠りにつけない。
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「あー! そうだった!」
私は大事なことを思い出して、大声を上げた。
「こんどはなに!?」
母は私の顔を、まじまじと見つめている。
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「さ、あとは家に帰ってゆっくりおやすみなさい」
母は後部座席のほうを向いて言った。
やっと家に帰れる。
汗もかいたし、はやくお風呂に入りたい。
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「ここでいい?」
母が口を開いた。
「うん……いろいろありがとう。 短い間にいろいろあって、ホント疲れちゃった」
私は、ふうっと長い溜め息をついた。
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まもなく、高円寺陸橋の交差点を通り過ぎた。
タクシーは、左側の適当な通りに入ると停車した。
気まずい雰囲気が車内に漂っている。
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「な、なに言ってんのよ。 ほら、もうじき高円寺陸橋よ」
母はタクシーのスピードを上げた。
ああ、どうしよう、よけいなことを言っちゃった……
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「ど、どうしたの? いきなり……」
母は戸惑った様子で答えた。
「ち、ちがうの……べつにおかあさんが私のことをお持ち帰りしようとしてるとか、そんなつもりで言ったんじゃ……」
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まっすぐ――そう、私はまっすぐ生きると誓う!
「持ち帰りなんてだめ! 高円寺陸橋を過ぎた辺りで降ろして!」
つい、大声を出してしまった。
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だめだめ、なんてずうずうしいことを考えてるんだ、私は。
いくらおかわり自由だからって、やっていいことと悪いことがあるわ――
「このまま、まっすぐでいいの?」
母が声を掛けた。
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そうなんだ。 いいことを聞いたわ。
こんど、魔法瓶を持ってマックに行こうかしら――
と、先日行ったCOCO'Sの朝食バイキングで、こっそりタッパーにごはんを詰めて持ち帰ろうとしていたおばあさんのことを思い出した。
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「あ、うん。 話には聞いたことあるけど、ほんとうなの?」
「うーん、たまたまおかあさんが入ったお店ではおかわりできたけど、全部のお店ができるかどうかはわからないわ」
タクシーは環状七号線に出て、右折した。
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タクシーは中央線沿いの道に出て、線路に沿って走りつづける。
「そうそう、そういえば裕子、マックのコーヒー、おかわり自由って知ってた?」
と、母は話題を変えた。
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「いいのよ。 私だって、今のこのあなたとの関係を楽しんでるんだから。 親子に遠慮は不要。 そうよね?」
と、言葉が途切れた私を気遣うように、母が言った。
「うん、ごめんね……私のほうから、おかあさんって呼びだしたのにね」
私も軽く笑いながら言った。
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「どうしたのよ? いきなり他人行儀な口調になっちゃって」
母は軽く笑いながら言った。
「ごめん……なさい。 なんだか、わざわざ家まで送ってもらうのに……」
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「じゃあ、家まで送るわ。 どう行けばいい?」
タクシーがゆっくりと動き出した。
「あ……じゃあ、まず環七に出て、南に向かってもらえますか?」
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お菓子にちなんで名前を付けただなんて……ほんとうに?
母は見たところ、けっこういい歳だと思うけど、ハッピーターンってそんな昔からあったのかしら?
「はい、これでさいご」
母は吹き矢を作り終えると、シートベルトを締めて、エンジンをかけた。
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「うふふ、ご名答! ほんと裕子は勘がいいわね」
母は嬉しそうに答えた。
「私の両親はね、ハッピーターンが大好きだったの。でも、いくら好きだからって、子どもの名前にまで付けなくってもねぇ……?」
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ハッピーカムバック……ハッピーリターン……
――あ! もしかして、ハッピーターンとか!?
「ねえ、お菓子のハッピーターンと、なにか関係ある?」
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考え込んだまま、なかなか答えない私にしびれを切らしたのか、母が言った。
「じゃあ、もうひとつヒントをあげるわね。 英語になおすとなんになるかしら?」
英語になおすと……?
「幸せ」はハッピー、「戻る」はカムバック? リターン?
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ということは、「幸せが戻る」という意味が隠されているのかしら?
それまで幸せな家庭だったのに、一転して不幸な境遇の中で産まれたから、幸せが帰ってくるよう願ったとか?
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「そうそう。 じゃあ、名前の由来までわかったら、たいしたものだわ」
「読み方は『ゆきふさ』でいいの?」と、私は尋ねた。
「うん。 ちょっとむずかしいからヒントをあげるわ。 『房』って漢字は、『戻る』に似てない?」
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「私の苗字? 変ってるでしょ。 『かりなたに』って言うの。 でも、みんなからは『メタたに』って呼ばれてたわ。 どうしてだかわかる?」
社員証をながめて考えてみたが、すぐにわかった。
「『刈る』と『名』に、カタカナのメとタが入ってるから?」
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ううん、この際名前なんてどうでもいいわ。
今は私のおかあさんだもの。
と、私の視線を感じ取ったのか、母が口を開いた。
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そういえば、母――いや運転手の過去はおろか、名前すらまだ知らない。
いまさらながら、助手席側のダッシュボード上に掛かっている、運転手の社員証を確認した。
「刈名谷 幸房」
なんて読むのかしら?