裕子の小説置場☆
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
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千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
「ばぁばばぁ、ぶぉばゎわばんば、ぶるぁばぶぶぃ、びっばぼぼばぁぶぼぉ?」
私はもう一度ゆっくりと話しかけた。
「ばぁんばっべぇ?」
母のアイスコーヒーのカップの中では、残り少ないコーヒーがバシャバシャと音を立てて飛び跳ねている。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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私も負けじとストローをくわえなおして言った。
「ぶぉばゎわばんば、ぶるぁばぶぶぃ、びっばぼぼばぁぶぼ?」
「ばんばっべ?」
母は怪訝そうな表情で答えた。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「ねぇ、おかあさん」
私はストローから口を離して言った。
「ばゎみ?」
母はストローをくわえ、アイスコーヒーに息を吹き入れながら答えた。
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「あら? ちゃんと確認したわよ。 でも、ちょっと息が強すぎたみたい」
母はそう言うとストローに口をつけ、ブクブクと息を吹き入れた。
「最初に少し飲んでおいてから、息を入れればよかったね」
私もストローに口をつけ、ズルズルと音を立てながらアイスコーヒーをすすった。
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紙ナプキンを数枚取って席に戻ると、母はうらめしそうな目でカップを見つめていた。
「あーあ、半分くらいに減っちゃった」
私は紙ナプキンを母に手渡しながら言った。
「ちゃんとフタが閉まってるか、確認しないからよ」
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「あら、いやだ!」
母は、びしょびしょの手を振りながら、紙ナプキンを取りに行こうと立ちあがった。
「あ、いいよ、おかあさん。 私が取ってくる」
私は立ちあがって、近くのゴミ箱の上に備え付けてある紙ナプキンを取りに向かった。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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ブバッ――――
母のカップからアイスコーヒーが勢いよくあふれ出た。
どうやら、カップのフタがしっかり閉まっていなかったらしい。
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息を吹きこんで泡立てたあとのアイスコーヒーって、まるでコーラみたい。
私がアイスコーヒーにミルクを入れないわけはこれだ。
「あら、まるでコーラみたいね」
母が真似して息を吹き込んだ。
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めいめいカップを手に取り、透明プラスチックのフタにストローを挿す。
私はフタがきっちり閉まっていることを確認し、ストローをくわえて思いっきり息を吹き込んだ。
ブクブクブクブク――――
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トレーを受け取り、空いている席に向かう。
夜の12時をまわり、さすがに客もまばらだ。
私と母は、窓際の席に、向かい合って座った。
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「おまたせしました」
店員は、透明のプラスチックカップになみなみと注がれたアイスコーヒーをふたつ、トレーに載せて差し出した。
私は母と顔を見合わせ、無言でうなづきあった。
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母のほうを見ると、軽く左右に首をふっていた。
「なしでいいです」
私は店員のほうを向きなおして言った。
店員はうしろにさがり、コーヒーを用意しはじめた。
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「ふたつともアイスコーヒー。 氷抜きでおねがいします」
母に確かめるまでもない。
「アイスコーヒー氷抜き、おふたつですね? お砂糖とミルクはおひとつずつでよろしいでしょうか?」
つづけて店員が聞いてきた。
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輪ゴムで閉じたチケットの束から2枚引き抜いた。
注文カウンターまで進み、店員に差し出す。
「いらっしゃいませ、こんばんは! アイスとホットどちらになさいますか?」
店員は汗で湿ったチケットを、顔色ひとつ変えずに受け取った。
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私と母は、駅前のマクドナルドに入った。
ポケットから、母にもらったコーヒー無料チケットの束を取り出す。
汗でかなり湿っぽい。
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「みっともないから、もうやめない?」
「うん……そうね」
私は両手を下げて膝を伸ばし、母と並んでそそくさとその場を後にした。
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人垣で挟まれた通り道を、私たちは歩いて行く。
隣の母が私に声をかけた。
「ねえ、裕子」
「なあに? おかあさん」
前方を見据え、ひたすらパンチを繰り出しながら、すり足で前進する私。
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数歩進んで母の前までたどり着くと、私たちのまわりの人混みが割れ、自然と道を開けてくれた。
なおも私は、すり足でパンチを繰り出しながら前進する。
その横を母が並んで歩く。
自然と沸き上がる拍手。
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私は母のほうを振り向き、もういちど膝を曲げ、腰を落とした。
息を大きく吸い込む。
セイヤッ セイヤッ
掛け声とともにパンチを繰り出しながら、すり足で前進する。
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目の前にいたラップ男が、地面に置いてあったキャンディーの袋を拾い上げ、渡してくれた。
「ありがとう、盛り上げてくれて……」
私がお礼を言うと、彼は笑顔でうなずいた。
さぁ、前を向いて歩かなきゃ。
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「だめよ、裕子! せっかくもらった飴を忘れちゃ!」
私はその場でよろめいた。
そ、そうだったわ、中年女性からもらったキャンディーの袋を忘れるところだった……
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「だめよ! 裕子!」
母の声が強まった。
――ハッ!?
そう! そうだったわ!
たった今、誓ったばかりじゃない!
私はもう、前を向いて歩いていくんだって!
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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みるみる群集の掛け声もしぼんだ。
「裕子……」
母の声だけが残った。
私は母の声のするほうに背を向けたまま、ムーンウォークで歩み寄ろうとした。