裕子の小説置場☆
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
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千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
口の中にモノが入っていたら、そのまま父の顔めがけて、噴き出していたところだ。
父の指が私の鼻の中で、グリグリとうごめく。
気持ち悪いばかりで、まったくクシャミの出る気配がない。
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「そういうときは、おもいっきりクシャミをしたほうがスッキリするぞ」
父はそう言うと、人差指と中指を立てたこぶしを見せ、いきなり私の鼻の穴に指を突っ込んだ。
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「どうした、裕子、風邪か?」
頻繁に鼻をかみだす私を見て、父が心配そうに声をかける。
「んー、なんだか鼻がむずむずして……」
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だから私にとって、ボックスティッシュは憧れの存在だった。
たまに家族で中華料理店に入ると、テーブルにボックスティッシュが置いてあることがある。
そんなときは、どうしても箱からティッシュをひっぱり出してみたくて、出てもいない鼻水をなんどもかんでみたものだった。
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ポケットティッシュに同封されているチラシを見ると、消費者ローンだったり、パチンコ店だったり、いかがわしいお店だったり……
どこからもらってくるのか、母は買い物などで外に出ると、かならず2、3個はポケットに入れて持って帰ってくるのだった。
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そういえば、思い出すかぎり、実家の母がボックスティッシュを買ってきたのを、見た記憶がない。
そのかわり、うちにはいつも、ひざほどの高さのカゴの中、ポケットティッシュが溢れんばかりに溜まっていた。
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小物を詰めなおしてファスナーを閉じると、ウエストポーチは、張りすぎず、たるみ過ぎず、ちょうどいい形に整った。
ウエストポーチを手に取り、軽く抱擁する。
おかあさん――あまりティッシュを使いすぎないよう、気をつけるわね――
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逆にスペースが余っても、おかあさん、たるんでシワが目立っちゃうもんね。
もういちど、財布やら手帳やらを取り出すと、さらにポケットティッシュを重ねて敷き詰める。
こんなものかしら――
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ウエストポーチを床の上に置くと、先にポケットティッシュを三段重ねにして、中に敷き詰めた。
その上に、財布や手帳を載せる。
まだ少し、余裕があるようだ。
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先にポケットティッシュを詰めてから、お財布とかよく使うものを入れればいいのか。
もういちどファスナーを開けると、ウエストポーチを逆さにして振る。
まずティッシュ、つづいてお財布や手帳が落ちてきた。
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ポケットティッシュをいくつか取り出し、ふたたびファスナーを閉めた。
それに、あんまりパンパンに詰め込むと、他に入れたものを取り出せなくなっちゃうもの。
――ん? 待てよ?
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ウエストポーチに手を伸ばし、ファスナーを勢いよく開けた。
押し出されるように、中からポケットティッシュがこぼれ落ちる。
やっぱり――腹八分目が一番よね。
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中から飛び出ようとするポケットティッシュを押さえ込みながら、ファスナーをむりやり閉じる。
パンパンに膨れたウエストポーチ。
おかあさん――苦しそう――
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キッチンの壁にぶら下げたコンビニ袋を取りに立つ。
中には、街頭でもらったポケットティッシュが、ニ、三十は溜まっていた。
ウエストポーチのもとに戻ると、ポケットティッシュを詰め込めるだけ詰め込んだ。
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旅の装備を詰め込んだウエストポーチは弾力に富み、母のふくよかな体型そのものだった。
もし――旅の途中でポケットティッシュを使い切って、弾力を失ったらどうしよう――
そうだわ! ありったけのポケットティッシュを詰め込まなくちゃ!
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ごめんなさい! おかあさん!
目の前のウエストポーチを抱きよせると、痛いくらいに顔を圧しつけた。
安物だっていい! だって、世界にたった一人のおかあさんだもの!
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でも、たしか、彼のウエストポーチは革製。
それにくらべて、私のは化繊の安物――
いけない! おかあさんの分身を、安物呼ばわりするなんて!
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顔を上げ、ウエストポーチのファスナーを開けると、財布、ハンカチ、ポケットティッシュなどを詰め込む。
おかあさん――ふと、刈名谷さんのことを思い出した。
そういえば、彼も、こんな黒いウエストポーチをしてたわよね。
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地黒の肌――ポリエステルのつるつるとした肌触りは、母そのものだ――
ウエストポーチを抱え込み、なんどもなんども頬擦りをする。
明日はいっしょに出かけましょう――
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リビングの床の上に無造作に転がっている、黒いウエストポーチが目にとまった。
おかあさん――
ウエストポーチに飛びつくと、顔を押しつけて匂いを嗅いだ。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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コンビニ袋は、耐久性に疑問があるし。
ショルダーバッグは、いざというときに、片手が自由に動きそうにないし。
となると、ちょっと入る量が少ないけど、ウエストポーチにするか。
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であれば、明日はひとまず新宿さえ抜ければ、安全度は高まる。
あ、そうだ、よく考えたら、もうリュックサックが無いんだった。
なにか代わりになるもの――
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
カオリたちは、もう私を追うことを諦めたかしら。
それとも、あの手紙にだまされて、やみくもに西に向かったかしら。
たぶんピーナッ子たちは、私が新宿から先には進めない体質だと、思い込んでいるはず。