裕子の小説置場☆
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
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千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
大家さんは私の手を取り、立ち上がらせてくれた。
まだまだ私の気持ちは収まり切っていなかったが、これ以上、大家さんの作業を中断してしまうのは申し訳ない。
私も手伝って、早くドアを取り付けてしまおう。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「ちょ、ちょっと、裕子ちゃん、はずかしいから、やめてよ!」
大家さんは照れくさそうに、なんどもひれ伏す私を制して言った。
「さぁ、それよりも、さっさといっしょに、ドアを直しちゃいましょうよ」
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私は投げ出したままの両脚を引き寄せ、正座した。
背筋を伸ばし、まっすぐ天に向かって両手を振りかざす。
「ほんとうに、危ないところをありがとうございました」
私は大家さんに向かい、敬虔な面持ちで礼を告げると、そのままなんども、ひれ伏しては両手を頭上に掲げることを、繰り返した。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「え? あ、はい! 大丈夫です! なぞなぞもいいけど、まずはしっかり戸締りをしてもらうことが肝心ですから!」
私は大家さんを心配させないよう、慌てて答えた。
心配そうに私を見つめる、大家さんのふくよかな顔が、なんだか妙に神々しく見えだした。
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大家さんの呼び声に、私は我に返った。
「大丈夫? ボーっとしちゃって……。 もしかして、突き飛ばされたときに、どこか頭をぶつけたりでもした?」
大家さんは、心配そうに私の顔を、のぞき込んだ。
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よし! さすがに2問、なぞなぞを用意しとけば、そうそうドアを破られることはないわよね?
――でも、まだちょっと心配だわ――うん、やっぱり、もう1問だけ用意して――
「裕子ちゃん! 裕子ちゃん! 大丈夫?」
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答えは――
レッドアイ、よ。
ビールをトマトジュースで割ったカクテルね。
私は、ジンジャーシロップで割った、シャンディガフのほうが、好きだけれどもね。
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念のため、もう1問くらい用意しておいたほうがいいわね。
じゃあ、第2問――
ドアはドアでも、ほろ酔い気分にさせてくれるドアは、なーんだ?
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答えは――
のど飴、よ。
でも、この程度なら、簡単に答えられてしまうかもしれない――
私のミスで部屋を荒らされでもしたら、アパートの番人としての面目丸つぶれだわ!
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もし、怪しいセールスマンや、空き巣狙いが来たら、おっきな声で叫んでやるの。
「この部屋に入りたかったら、私の出すなぞなぞに答えてからにしなさい!」
って。
えーっと、第1問――
ドアはドアでも、舐めるとおいしいドアは、なーんだ?
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だって、もし私がわがまま言って、ドアごと浦安に運んでもらうとしたら、私がいない間、この部屋を借りてる人が、戸締りできないってことだし――
もちろん、浦安には行きたい――大ネズミにだって会いたいわ!
でも――罪の無い人に物騒な思いをさせるくらいなら、私、一生この部屋の番人として、身体を張って生きるわ!
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もしかしたら、ドアに衝突した勢いで、ドアと一体化し、平面人間として一生を送るはめになっていたかもしれない。
そうなったら私、このアパートの一部として、どこにも出掛けられなくなっちゃうんだわ。
もちろん、浦安にも――
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「ごめんなさい、私の不注意で、またドアが……」
私は謝った。
「ううん。 でもよかった、もしあのままドアの下敷きになってたらと思うと……私、無我夢中で突き飛ばしちゃったけど、大丈夫?」
いや、このドアに押しつぶされたら、軽い打撲程度では、すまなかったはずわ。
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「まさか、裕子ちゃんが、もう帰ってくるとは思わなかったから……。 ドアをハメたのはいいけど、工具箱にドライバーが入ってないのに気づいて、そのままにして、取りに行ってたのよ」
大家さんは、申し訳なさそうな顔で言った。
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次第に薄れてゆく砂ぼこり。
大家さんと私の間には、一枚の大きな板が横たわっていた。
――これ、私の部屋のドアじゃないの。
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砂ぼこりの向こう側に、丸い人影が見える。
「あ、あぶないところだったわ!」
その人影から発せらた声は、ほかでもない、大家さんのものだった。
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ところどころ痛む右腕をさすりながら、ゆっくり立ち上がろうとする私――
ドーーーーン!
こんどは目の前で、大きな音とともに、砂ぼこりが舞い上がった。
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一瞬のできごとに、なにが起きたのか、すぐには理解できなかった。
尻餅をついた姿勢のまま、呆然とする私のまわりには、倒れた自転車が散乱していた。
――なにやら大きな物体にぶつかられて吹き飛び、そのまま自転車置場に突っ込んだらしい。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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私の両足は宙に浮き、身体は右斜めに傾いたまま、いきおいよく吹き飛ばされた。
またすぐ、全身に衝撃を覚えた。
先ほどとは違い、ところどころ、鈍い痛みが走る。
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ドアノブに手をかけ、手前にひねろうとした刹那――
「あぶない!」
どこからともなく、大家さんの叫び声が聞こえたかと思うと、同時に私は、全身に激しい衝撃を受けた。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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軽い駆け足で息を整えながら、アパートに向かう。
玄関を抜け、アパートの一階、一番奥の自分の部屋の前に着くと、倒れたドアはすでに元通りに備え付けられていた。
大家さん、どうもありがとう――
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コーチ! あなたが露店で買った、その右手首にしているライマ、どう見てもバッタもんですよ!――
――気が付けば、アパートの玄関を、数十メートルも通り過ぎていた。
ついつい、イメージトレーニングにのめり込んでしまうのが、私の悪いクセだ。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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勝利は目前――
この大会が終わったら――こんどこそ――どうしても言えなかった、あの言葉を――
こんどこそ! コーチに告げるんだ!
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コーチ、ごめんなさい!
あまりのトレーニングのきつさに、私、なんどコーチのことを、うしろから蹴り飛ばそうと思ったことか――
けど、あの地獄のトレーニングのおかげで、今や私の前には誰の姿も見えない。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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ももを高く上げ、手のひらは指先までしっかり伸ばし、交互に大きく振る。
一着でゴールを迎えたあとの、観客席から沸き起こる歓声と、駆け寄るコーチとの熱い抱擁をイメージしながら、スピードを増していく。
たしかにコーチの指導は厳しかったわ――けど、それも、今日の勝利を掴み取るためには、決して避けて通ることのできない道だったのよ!