裕子の小説置場☆
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
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千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
「あ、そうそう、そうなのよ。 私もさっき玄関を掃除しようと出てみたら、看板が無くなってて、びっくりしちゃったわ」
大家さんは私の隣に立ち、日に焼けずにいた四角い看板跡を、まじまじと見つめていた。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「あ、いや、その……」
指差した手を、あわてて引っ込める私。
どうやら大家さんは、私を見送りに出てきてくれたらしい。
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うーん、これはミステリーね。
「犯人は……おまえだ!」
掛け声とともに、勢いよく後ろを振り返り指差した先には、なんと大家さんが立っていた。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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どこ? どこに行ったの!? 大村さん!
昨夜、母に家まで送ってもらった時点では、たしかに掛かっていたはず――
だったら、私が寝ている間に、だれかが――
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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アパート前の通りに出た。
いつものように元気よく、オロナミンCの看板に描かれた大村崑に挨拶する。
「大村さん、おは……」
大村……さん……?
な、無い! 向かいの建物の塀に掛かっているはずの看板が――無いわ!
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「じゃあ、申し訳ないですけど、ドア、よろしくおねがいします!」
「はい、じゃあ、気をつけていってらっしゃい」
大家さんに一礼し、私は部屋を後にした。
わざわざドアを直してくれる大家さんのためにも、きっと私は生きて帰ってくるから!
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大家さん……ありがとう……!
これで、なんのためらいもなく、旅に出られる。
あ、昨日ドアノブも壊したことは、黙っておこう……
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「若い子は元気があっていいわね! ドアの一枚や二枚、ぶち破るくらいでなくっちゃね」
大家さんの予想外の反応に、私は拍子抜けした。
「これからお出掛け? 急いでるなら、おばさんが直しておくから、行ってらっしゃい」
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「あ、大家さん……ごめんなさい、あの、これ……」
私はしどろもどろになって答えた。
いつも余ったからと言っては、果物やお野菜を持ってきてくれる大家さんだが、さすがにこれは怒られる――
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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しばらく頭の中が真っ白になったまま、倒れたドアを見つめていた――
と、そこに、アパートの二階に住む大家さんがやってきた。
「あらまあ、裕子ちゃん、朝から犬の鳴き声やら物音やら、なんだか騒がしいと思ったら……」
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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立ち上がって財布と家の鍵を手に取り、ジーンズのポケットにねじこんだ。
さあ、出発だ! ゴソスケ、留守を頼んだわよ!
ワークブーツを履き、玄関のドアを勢い良く押し開けると、ドアの蝶番が外れて、バタンと外に向かって倒れた。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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アチョー!
奇声を上げながら右脚を高く振り上げると、勢いでバランスを崩し、その場にしりもちをついた。
あぶない、あぶない、出発前に怪我をしては元も子もないわ。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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旅に出ることに、なんら、ためらいはない。
危険は覚悟の上だ。
でも、スパルタンXを全面クリアできなかったことだけが心残り――
だから――私はきっとまたここに帰ってきて、チャレンジする!
それまで、首を洗って待ってなさいよ、Mr.X!
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空になった牛乳パックをすすぎ、平べったく折りたたんでゴミ箱に捨てる。
洗面所に行き歯を磨き終えると、洋服ダンスからジーンズとカットソー、そして五本指ソックスを取り出して着替えた。
この部屋とも、しばらくお別れね――
部屋の中のぐるりと見回す。
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牛乳パックの口を右手の指先でしっかりとつまみ、パックの底に左手を当てて、上下に激しくシェイクする。
いつもは生玉子も加えるのだけど、今朝はあいにく切らしている。
名付けて、「裕子スイートソウルブレイカー」。
口当たりが良いので、朝からいい気になって飲みすぎると、その日一日が台無しになるのだ。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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ちょうど、あと一杯分残っている。
よかった、昨日千葉に向かっていたら、このまま腐らせているところだったわ。
シンク下の扉を開け、養命酒の瓶を取り出し、目分量で牛乳パックの中に注ぎ入れた。
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ゴソスケは、今後の欧米市場の展望について、まだまだ話し足りないようだったが、お腹が空いてきたので、ゴソスケを枕元に置いた。
「ごめんね、ゴソスケ。 千葉から帰ってきたら、またゆっくり話そうね」
ベッドを下り、キッチンに立つと、冷蔵庫を開けて牛乳パックを取り出した。
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「ぶ、ぶぶぅ」
私はゴソスケに代わって答えた。
その後、私たちは小一時間ほど、ギリシャ危機に端を発する株安と円高について、熱く語り合った。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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窓を閉めると、ベッドの下に落ちていた掛け布団をひっぱり揚げた。
あれ? ゴソスケがいない。
掛け布団の中をさぐると、いつのまにか、ブタのぬいぐるみは、足先にまで移動してた。
「おはよう、ゴソスケ!」
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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犬、猫、カラスだったら、犬がいちばん強いはずだ。
カラスと猫は私の鳴き声を聞くと、それぞれどこかへ逃げ去っていった。
うわんっ(もう) わわんっ(くるなっ)
駄目押しで、もうひと吠えしておいた。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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早朝、窓の外で威嚇し合う、カラスと猫の激しい鳴き声で目が覚めた。
アパートの角のゴミ捨て場で、残飯を奪い合っているらしい。
掛け布団をはねのけ身体を起こすと、窓を開け放ち、私もいっしょになって鳴き喚いた。
うー わんっ わわんっ わわんっ
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
風呂から上がり、身体を拭いてパジャマに着替えた。
つけっぱなしだったPCの電源を落とし、ベッドにもぐりこむ。
枕元に置いてある、お気に入りのブタのぬいぐるみを抱き寄せると、深い眠りに落ちていった――
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
ストローをくわえ、先端をお湯につけて、静かに息を吹き入れた。
ブクブクブク――
毎晩、湯船に浸り、こうして息を吹き入れるたびに思う。
ちっぽけな私――たとえ小さな泡粒すぎない存在でも、私が起こしたかすかなさざ波は、きっと世界の果てまで――
あ、クラッときちゃった。
さっさと上がろう。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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シャワーで汗を流し、湯船に身体を沈める。
ふぅっと長い溜め息が、自然にもれた。
石鹸台に置いてあるストローに、手を伸ばす。