裕子の小説置場☆
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
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千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
セイヤッ セイヤッ あいつらのせいやっ
みんなの心と声がひとつになり、高円寺駅前を熱狂が取り巻いた。
私はこれまでの人生、ムーンウォークで後ろ向きに歩んできた。
でも、これからは前向きにパンチを繰り出していってもいいんじゃない?
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
ラップ男が頭上で両の手を大きく振りながら、集まった群衆に向かって、いっしょに掛け声をあげるよう求めている。
Say, Ya! Say, Ya! Ah, it's a laugh? No! Say, Ya!
セイヤッ セイヤッ あいつらのせいやっ
声はますます大きくなる。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
と、こんどはだぶだぶの上下ジャージを着た長身の若い男が前に出てきて、ラップ調で語り出した。
Say, Ya! Say, Ya! Ah, it's a laugh? No! Say, Ya!
空耳アワーみたい。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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なおも掛け声とともにパンチを繰り出しつづける私。
ふと気がつくと周囲の人ごみのあちこちから、いっしょになって掛け声をあげているのが聞こえてきた。
中には合いの手を入れている者いる。
セイヤッ セイヤッ (そや!) あいつらのせいやっ (ほんまや!)
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「だいぶうまなってきたで! ほな、飴ちゃんここ置いとくから、おなか空いたらたべな」
中年女性は、私の足元近くにキャンディーの袋を置くと、満足した様子で人ごみへと消えて行った。
私は本場の掛け声を身に付けつつあった。
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私は中年女性のアドバイスに従い、アクセントを意識して掛け声をつづけた。
セイヤッ セイヤッ あいつらのせいやっ
明らかな進歩に周囲から感嘆の声が上がった。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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私は声を張り上げ、パンチを繰り出しつづけた。
次第に、周囲に人だかりが出来はじめる。
と、パンチパーマにショッキングピンクのトレーナー、豹柄のスパッツをはいた小太りの中年女性が、私の前に一歩出て言った。
「ちょっとちゃうな、 ‘あいつら’ のとこ、 ‘つ’ にアクセント置かんと!」
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私はひたすらパンチを繰り出す。
セイヤッ セイヤッ
こんな時間になったんも、あのカップルのせいや! 私のせいやない!
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通行人はみな足早に、私を避けるようにして通り過ぎていく。
セイヤッ セイヤッ
せめて、あのカップルにこのパンチをお見舞いしてやりたかった。
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もしかして、私はアクションゲームには、向いてないのかもしれない。
私は右足を後ろに引いて左足を軽く曲げ、掛け声とともに、なんどもパンチを繰り出した。
セイヤッ セイヤッ
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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私の旅、か……
家を出てからこれまでのことを、ぼんやり思い返してみた。
3時間もスパルタンXをプレイし続けたにもかかわらず、結局1階をクリアできなかったこと。
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「いいわよ。 私も朝からずっと走りっぱなしで疲れちゃったから、今日はもうお仕事おわりにするわ」
タクシーは駅前のマクドナルドの前に私を降ろし、車を停めにどこかへと走り去った。
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「ありがとう」
気がつくと、すでに高円寺駅前まで来ていた。
「その前にマックでコーヒー飲まない? さっき、おかあさんからもらったコーヒー無料チケットもあるし」
私はもう少しだけ、母役を買って出てくれた運転手と一緒に居たかった。
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「わかったわ」
私は素直に運転手の言葉を受け入れた。
「今日はもう遅いわ。 ゆっくり休んで、また明日行ってみたらどう?
よかったら、このまま自宅まで送ってあげるから」
運転手が提案した。
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「なにか知ってるの?」
こんどは私が質問する側にまわった。
「どうかしら……? でもね、裕子、これはあなたの旅。 あなた自身で答えを見つけるべきよ」
バックミラー越しに、返事をする運転手と目が遭った。
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「もうこんな時刻だったんだね。 浦安まで巨大ネズミを捜しに行くつもりだったんだけど……」
私は答えた。
「巨大なネズミ? それって、えっと、もしかして……」
運転手はなにか言おうとして止めた。
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私は運転席のデジタル時計に目をやった。
すでに11時をまわっていた。
ムーンウォークは、思っていたほどにはスピードが出ないことを再認識した。
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「高円寺駅ね。 だったらすぐよ。 これから電車に乗って帰るの?」
運転手が尋ねた。
「ううん、家は高円寺駅からけっこう歩いたところ。 これから浦安に行くの」
と私。
「あら、こんな時間に? おともだちのところにでも行くの?」
運転手はさらに尋ねた。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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南部せんべいを食べ終えると、こんどは喉が渇いてきた。
「やっと見覚えのある道に出たわ」
運転手が言った。
「じゃあ、高円寺駅までおねがいできる?」
私は行き先を告げた。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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一口大になったピーナッツ入りとゴマ入りの南部せんべいそれぞれのかけらを、いっしょにつまんで口に放り込む。
甘味のあるピーナッツ入り南部せんべい、ほのかな塩味のゴマ入り南部せんべい。
口の中で溶け合い、絶妙な味わいとなる。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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運転手はなにも気付かない様子で、運転に集中していた。
私は右腋の下から、さらに細かくなった南部せんべいのかけらを取りだし、手のひらに載せた。
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私は心の中で叫んだ。
サザァーーン クラッ カァーー!
右腋の下でピシリという鈍い音がした。
運転手に聞こえなかったかしら……
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ちがう!
やっぱり自分で割らなきゃ!
私は運転手に気兼ねしながらも悟られないよう、南部せんべいのかけらを二枚、そっと右腋の下に挟んだ。