裕子の小説置場☆
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
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千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
アパートまでもう少し。
どうやらまだ、さくら姉さんの包囲網は、張られていなかったみたいね。
念には念を入れ、ギャロップから全力疾走に切り替えた。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
私はそのままギャロップで住宅街を駆け抜け、自宅アパートのある通りまで、たどり着いた。
遠くに見えるアパートの玄関先に、大家さんの姿はなかった。
忽然と消えた、大村崑が描かれたオロナミンCの看板――大家さんは、なにか手がかりを掴めたのかしら。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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一呼吸置いて、彼女は電話に出た。
私はみるみる彼女から遠ざかっていく。
「はい……さ………………うん…………かった……匂……おしえ……」
それ以上は、聞きとれなくなった――
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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背中越しに彼女の声が聞こえた。
「またね、わたしはカオリ。 あなたとは、なんだか、また会える気がする……」
と、彼女の持ち物だろう、携帯電話の呼び出し音が鳴り響いた。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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あら、残念でした。
この人、匂いには敏感みたいだけど、占いはそんなに得意でもないみたい。
だって、私の探しものは、浦安に住む大ネズミだけだもの――
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すると、彼女はまた、私のほうを向いて鼻を動かした。
「さいごにアドバイス」
彼女は私の目をじっと見据えて言った。
「あなたの探しものは、ふたつ……。 ひとつはすぐに見つかるわ。 もうひとつは……そうね、ひとつめ次第ね……」
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「あら、そうなの……、じゃあ、ここでお別れ、ね」
彼女は、少し寂しそうに言った。
助かった。
これ以上、ついてくる気はないようだ。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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公園の出口が近づいてきた。
さっさとこの人と、おさらばしたい。
私は彼女に向かって言った。
「あの、私、このまま公園から出ちゃうつもりだけど……」
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彼女は続けた。
「でも、あなたからは、血のにおいがしないもの……。 きっと、人を驚かすための、おもちゃなのね……」
き、気味が悪いわ。
どうして匂いだけでそこまで――
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え!? なに? どういうこと?
それって、まさか――ストローと爪楊枝で作った吹き矢――のこと?
――どうして、それを!?
背中に戦慄が走った。
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「あら……?」
彼女は、なにかに気づいたのか、もういちど私のほうを向き、鼻をヒクヒク動かした。
「プラスチックと……木…………、ふふっ、そんなおっかないもの、隠し持ってるのね」
彼女はうれしそうに笑って言った。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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うーん、べつに服もコーヒーの匂い、しないんだけど。
自分では慣れちゃって、気にならないだけ?
けど、この人、私がコーヒー好きだってこと、匂いだけでわかったし――
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あらやだ! 今日はまだコーヒー飲んでないのに――
そんなに匂いが染みついてるのかしら?
私は右手の甲を鼻に近づけ、匂いを嗅いでみた。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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くんくん――
彼女は目を閉じたまま前を向くと、少し顔を上げ、今嗅いだ匂いを味わうように言った。
「あなた、は……コーヒーの、いい香り……」
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血の匂い?――お魚が好きで、よく自分で捌くのかしら?――べつに気にならないけど――
ギャロップをつづける二人。
おもむろに、彼女は肩が触れ合うほどに寄ってくると、少し鼻を突き出し、目を閉じて私の匂いを嗅ぎだした。
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「あのぅ、ふだんあまり外に出ないんですか?」
ようやく私は言葉を返した。
彼女は少し間を置いた後、はにかみながら答えた。
「そう、ね、わたし、血の匂いがするから……」
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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言葉を返さない私を気にすることもなく、彼女はつづけた。
「こうして、外に出てみるのも、気持ちがいいものね。 ギャロップなんて、子どものころ以来だわ」
この人、病弱であまり外に出られないのかしら?
でも、ギャロップで走り回ってるし、さっきは、お酒を飲みすぎたみたいなことも言ってたし――
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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私を見据える薄茶色の瞳。
陽の光の加減だろうか、つかみどころのないその輝きに、一瞬、得体の知れない不気味さを感じたが、同時に以前どこかで会ったような、妙な懐かしさも覚えた。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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とっさのことに、私は返事もできず、顔を見つめたまま並んでギャロップをつづけた。
病的なまでに青白く透き通った肌。
全身黒一色、足首まで覆ったワンピースと、かかとの高いブーツ。
腰まで伸びた黒髪が、規則正しく跳ねる。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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すぐにその声の主は私に追いつき、左脇に並んでギャロップの歩調を合わせた。
「こんにちは、ごきげん、いかが?」
声を掛けられ左を向くと、目が合った。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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弾む身体の中から、次第に不安が抜け出ていく気がした。
と、私と掛け声を合わせながら、背後から女性の声が近づいてきた。
いち にぃ 蚕糸♪
にぃ にぃ 蚕糸♪
散々飲んだし 寝起きだし♪
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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いち にぃ 蚕糸♪
にぃ にぃ 蚕糸♪
さん さん 日差し 影法師♪
掛け声に合わせて飛び跳ねる自分の影を見つめながら、ギャロップで公園内を突き進む。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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とにかく今日は早く家に戻って、じっとしていよう。
もしかしたら、さくら姉さんとやらの包囲網が、張られつつあるかもしれないし。
はやる気持ちに応えるように、私の脚は家に向かって自然とギャロップを始めていた。