裕子の小説置場☆
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
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千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
どうして母は、あんなつんつるてんのスラックスを履いているの?
しかも、濃紺のブレザーとスラックスに白いソックスだなんて、まるで学生みたい。
洗濯しすぎて縮んだのかしら――
「裕子! 集中!」
母の声が響いた。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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私はふたたび、木から数メートル離れて立ち、吹き矢を口に当てた。
もはや、正面の木の幹しか目に入らない。
――いや、やっぱり、その横に立つ母の白いソックスが気になるわ。
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「ごめんなさい……もういちど落ち着いて練習するわ」
私がそう言うと、母は握った腕から手を離し、私の肩を軽く叩いた。
「だいじょうぶ、裕子ならすぐコツをつかめるわ」
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「いい? 怒りは自分を見失わせるわ。 現に今も、おかあさんが演技していたのを見破れなかったじゃない?」
たしかに母の言うとおりだ。
いくら私が初めて吹き矢を吹くとは言え、あそこまで的を外すとも思えない。
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「なーんて、うそよ!」
母は笑顔で顔を上げた。
と、母は、肩に乗った私の腕を握り、きびしい眼差しで言った。
「裕子、あなた今、怒りに任せて吹き矢を吹いたわね?」
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「う、ぐぐ……」
うめき声を上げる母。
「どこ? どこに刺さったの?」
私はうずくまる母の肩に手を置き、問いかけた。
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木の左脇に立っていたはずの母に目を向けると、股間を押さえてうずくまっている。
私はあわてて母の元に走り寄った。
「だいじょうぶ? おかあさん!」
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木の幹を見据え、精神を集中させた。
ふと、あの目の大きさがピーナッツほどの、ひどいアイメイクの女の顔が脳裏に浮かんだ。
ばかっ――
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「いい? 木の幹と人間の胴は、だいたい同じくらいの太さね。 最初から急所を狙おうなんて、考えなくていいから。 まずは確実に当てて、相手の戦意を喪失させることが大切よ」
母のアドバイスに耳を傾けながら、静かに吹き矢を口に当てる。
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「さぁ、裕子もやってごらんなさい」
母は木から離れて言った。
私も吹き矢を一本手に取り、木と数メートルの距離をおいて立つ。
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私も木に歩み寄ると、母が幹の胸の高さあたりを指差した。
目を凝らして見ると、幹の中央に深々と爪楊枝が突き刺さっている。
なんて肺活量なの!?
どうりで、カップのフタが外れて、アイスコーヒーが噴出すはずだわ。
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母と木の距離は、7、8メートルほど。
吹き矢を構えたまま、母は微動だにしない。
つんつるてんのスラックスからのぞく白いソックスが、外灯に照らし出されて、やけにまぶしい。
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私は吹き矢の束から一本抜き取り、母の手に載せた。
「おかあさん側が吹き口」
「うん――」
母は吹き矢を口に当てた。
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「あそこがいいわ」
と、外灯に照らされた一本の木に、母は歩み寄った。
「吹き矢を一本ちょうだい」
木を見据えたまま、背後に立つ私に向って、開いた右手を差し出す母。
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母もタクシーを降りた。
「ついてらっしゃい」
母は、タクシーを止めていた脇の公園に入ると、ぐるりとあたりを見わたした。
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「さ、次は練習よ」
と、すかさず後部座席の左側ドアが開いた。
私は母にうながされるまま、吹き矢の束を手にしてタクシーを降りた。
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作業に没頭する母には、なにか話しかけがたい雰囲気が漂っていた。
車内でふたりきり、無言で吹き矢を作りつづける――
「はい、これがさいご」
母は、ふぅっと大きなため息とともに、ストローを手渡した。
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母は黙々と作業を続け、吹き矢が一本完成するごとに、私に手渡す。
私は向きに気をつけながら、それを輪ゴムで綴じた束に加えていく。
みるみる吹き矢の束は、太くなっていった。
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「でも私、今までいちども吹き矢なんて吹いたことないわ」
「大丈夫、これからおかあさんといっしょに公園で練習しましょう」
母は手元から目を離さず答えた。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「こんな危ないもの……私、あつかえない……」
私が震える手で母にストローを返そうとすると、母はそれをさえぎるように、強い口調で言った。
「女の一人旅は危険よ。 自分の身ぐらい自分で守りなさい」
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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私は受け取ったストローを、車内灯にかざしてみた。
吹き口と言われた側に、中に入った爪楊枝の影が見える。
どうやら、吹き口をくわえて強く吹くと、爪楊枝が矢として飛び出す仕組みらしい。
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「これは吹き矢よ。 今、裕子に向けたほうが吹き口。 まちがえないでね」
私はストローを受け取った。
「これからのあなたの旅に、どんな危険が待ち受けてるか、わからないから……」
そう言いながら、母はまた手元で作業を始めた。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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と、こんどはストローだけを一本、母は差し出した。
「はい、これ。 向きに気をつけて」
向き? なにか細工をしたのかしら……