裕子の小説置場☆
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
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千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
『ネズミに会いに』を最初から読む
「ごめんなさい、おかあさんの宝物だったわよね」
私は、ストローの束と爪楊枝のケースを母に返した。
「あはは、宝物だなんて。 さっきから、おかしなことばかり言うわね」
母はそれらを受け取ると膝の上に置き、コソコソとなにかしだした。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「ちょっとかして」
と、母はもういちど手を差し出した。
――ゴソスケもそうだった。
目の前に拾ってきた宝物を置くものだから、てっきりくれるのかと思い、拾い上げると、こんどは大慌てで私の脚にすがりつき、返してくれるようブィブィ吼えるのだ。
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「ん? なあに?」
と無邪気に微笑む母。
「ううん、なんでもない。 で、これをどうするの?」
私はあわてて話題を逸らそうとした。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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ゴソスケはよく家を抜け出しては、どこからともなく、ボロボロになった革靴だのテニスボールだのを拾ってきた。
そして自慢げに、それら戦利品を私の前に置いては、尻尾を振りながら顔を見上げたものだった――
「フフッ、ゴソスケみたい」
私はつい、口に出してしまった。
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私はそれぞれの手に、ストローの束と爪楊枝のケースを持ち、交互に見比べた。
母はいったい、なにがしたいのだろう――
私はふと、実家の飼い犬ゴソスケのことを思い出した。
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「あはは、そりゃそうよ。 おかしなこと言うのね、裕子は」
母はころころと笑いながら言った。
私が爪楊枝のケースを受け取ると、
「そしてこれも」
と、母はさきほどマクドナルドで手に入れたストローの束も差し出した。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「ほら、これ」
母が差し出したのは、爪楊枝のぎっしり入った透明な円筒形のケースだった。
「べつに私、アイスコーヒーが歯に挟まったりしてないけど……」
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私は後部座席に乗り込んだ。
母はエンジンをかけると、助手席をさぐってなにかを手にした。
と、車内灯を点けて私の方を振り向いた。
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駅前のマクドナルドを出てしばらく歩く。
と、公園の横に止めてある一台のタクシーが見えてきた。
タクシーにたどり着くと、母は運転席に乗り込み、後部座席左側のドアを開けてくれた。
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あのストローでなにをするつもりなのかしら……?
早足で先を行く母の、広い背中とつんつるてんのスラックスから覗く白いソックスをぼんやり交互に眺めながら、遅れないよう後を追った。
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「私のため?」
私は聞き返した。
「そうよ。 とにかくタクシーに戻りましょう」
そう言いながら、母は出口へ向かって歩き出した。
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「これはね、裕子のためなの」
と母。
母の言葉の意味がわからなかった。
私、べつにストロー噛みたくないんだけど……
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「見て、これ」
母は右手に握ったストローの束を差し出した。
「おかあさんが、そんなにストロー好きだって知らなかった」
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ゴミ箱でゴミを捨て、ふと母の姿を探すと、注文カウンターに立ち寄り、店員に向かって話しかけているのが目に入った。
しばらくやりとりして店員からなにかを受け取ると、一礼してこちらに向かってきた。
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母は満足したのか、ストローから口を離すと紙ナプキンを手に取り、口のまわりを拭きながら言った。
「じゃ、そろそろ帰りましょうか」
「うん、明日は長旅になりそうだしね」
私は空のコーヒーカップふたつをトレーに載せ、立ち上がった。
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母はしばらく、ひとりでストローを噛むのに熱中していた。
そのあいだ私は、明日、どうやって浦安に行くか、あれこれ考えをめぐらしていた。
やっぱり、高円寺駅から東西線一本で行くのが確実かしら……
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(わかってるわ、おかあさん。 私、自分の力でなんとかするから)
私は母に向かい、無言でうなずいた。
「そぉ? 悪いわね、催促しちゃったみたいで」
母はそう言うと、噛んでいたストローを自分のカップに戻し、こんどは私のカップからストローを引き抜いて噛みだした。
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母は私の目をじっと見つめている。
くちゃくちゃくちゃ
ストローを噛む音が次第に激しくなってきた。
まるで、私の答えを急かすかのように……
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私はタクシーの中での母の言葉を思い出した。
(これは、あなたの旅――)
たしかに母の力を借りれば、答えはすぐに見つかるのかもしれない。
でも、それで――
くちゃくちゃくちゃ
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「たしかに――」
母はカップからストローを引き抜き、こんどはまだきれいなほうのストローの端を、右奥歯で噛みだした。
「たしかにお母さんのタクシーに乗って行けば、すぐに浦安には着くわ。 でも、あなた、それでいいの?」
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母は、ストローから口を離した。
ストローの端が、噛んだ跡でギザギザにつぶれている。
「それはできないわ」
母は真剣な眼差しで私を見据えた。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「まぁ、タクシー運転手っていう仕事柄、なんどかそっちのほうまでお客さんを乗せて行ったことはあるわよ」
母はストローを左奥歯でくちゃくちゃと噛みながら答えた。
「じゃあ明日、浦安まで乗せてってくれる!?」
私は身を乗り出して言った。
千葉の浦安に住むという巨大ネズミを探しに、旅に出た私……
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「――ごめん、で、なんて言ったの?」
母が言った。
「あ、うん。 おかあさんは、浦安に行ったことあるの? って」
私は答えた。
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「息……吹き込みすぎて……クラッときちゃった……」
母はそう言いながら、なんども口で大きく息をした。
私もストローから口を離し、母の息が整うのを待った。
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私は大きく息を吸い込み、さらにゆっくりと話しかけた。
「ぼぉばぁばぁばんばぁ――」
「あ、ちょっとごめん……」
と、母はストローから口を離し、眉間にしわを寄せながら宙を仰いだ。